■第2話■ 雲早山のツノクロツヤムシ

写真と文 鈴木知之  

顔のアップ。なかなか立派な角である
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 2001年11月中頃、僕は四国を訪れた。
僕が見たかったのはツノクロツヤムシ Cylindrocaulus patalis 。
何故ならこの虫は四国と九州に生息している虫だから、関東にはいないし、それに格好もいい。
体長は2cm弱で、角があって、黒くて、艶がある虫なのだ。
そもそのこのグループ、つまり、クロツヤムシ科 Passalidae の甲虫は亜社会性の虫として知られている。
亜社会性昆虫とは、社会性昆虫であるミツバチや、アリ、シロアリの仲間のように女王アリ、王アリ、働アリ、兵アリなどの職階性は発達していないけれど、親が何らかの形で子の世話をする昆虫のことを指す。

 クロツヤムシの仲間は熱帯地方に分布していて、朽ち木の中などに坑道を掘り、♂と♀と複数の子どもたち(幼虫)からなるコロニーを形成している。
親も幼虫も朽ち木を食べるから、食うにも困らない。
幸せな家族生活を営んでいる甲虫なのである。
しかも、幼虫は親がいないと死んでしまう。つまり、幼虫は両親からエサを与えられないと生きて行かれないのだ。
このように、生態学的にはとても興味があるグループなのだが、残念ながら昆虫愛好家には人気がない。
どうして?
僕が思うには、たくさんの種類がいるにも関わらず、それぞれサイズが異なるだけで良く似ているからだと思う。
良く似ているから分類は難しい。
だからアマチュア研究者には手が出せないから、標本を集めている人も殆どいない。

 さて、四国を訪れた僕は、同行した友達である関野良一氏と一緒に徳島県の雲早山(くもそうやま)へ登った。
ルリクワガタ Platycerus delicatulus delicatulus とニセコルリクワガタ P. sugitai を採集したあと、せっかくだからと頂上まで登ってみた。
1490mある山頂は見晴らしはよかったが、風が強くとても寒かったので記念写真を1枚撮って、すぐに引き返したのであった。
山頂を後にした尾根でのこと、ツノクロツヤムシは普通種だと聞いていたため、適当な大きさの白腐れの倒木を削ってみた。
直径10cm、長さ1mにも満たない朽ち木である。
割った朽ち木の中には坑道があり、そこから3頭のクロツヤムシが見つかった。
氷りそうなほど冷たい材の中で、彼らは身を寄り添って越冬の準備に入っているようだった。
因みに、この時期の四国の山は寒く、この日の2日後に高知県と愛媛県の県境を通る瓶が森林道では大雪に見舞われ、その翌日に訪れた剣山も雪化粧をしていて、土産物屋にあった温度計は昼間だというのに2℃を示してしたのである。

 話を戻そう。
クロツヤムシは雲早山にはたくさん生息しているらしく、腕くらいの赤く朽ちた倒木を割ってみたら、またまた見つかった。
もう撮影は済んでいたし、標本も3つあれば十分なので、 採集はせずにそのままにしておいた。
この日、僕はツノクロツヤムシを初めて目にしたわけであるが、予想通りなかなか愛嬌があって良い虫であった。
翅が退化してるから、やや丸みがあり、スタイルも僕の好みである。
大体僕は翅の退化した昆虫は、それだけで格好良いと思う。
ツノクロツヤムシは、親と幼虫が互いに発音してコミニュケーションをするのだが、発音の仕組みも両ステージで異なっている。
親は、後翅がへら状に退化して先端は硬く無数の毛に覆われた部分がある。
この部分を腹部第6節の背面にある丸い小さな隆起に摺り合わせて、かん高いキーキーという摩擦音を発するのだという。
しかし、今回僕が採集したときは鳴かなかった。幼虫は、後脚が短く退化していて、その脚の先を中脚の基部にある発音板にこすりつけて、チーチーという摩擦音を発するのだそうだ。
次にチャンスがあれば聞いてみたいものである。

 海外では翅の退化していない種も多く、夜間灯火に飛んでくる。
そんな奴らもチーチー鳴くから、ツノクロツヤムシとは違った方法で発音してるはずである。
今ひとつ、コレクターには人気のないクロツヤムシの仲間ではあるが、彼らの生活史は面白そうである。
生息地の環境。標高1400mはくらいで、湿度が高いのであろう石はみな苔むしていた
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ツノクロツヤムシ成虫。 同じ坑道から見つかったから雌雄かもしれない
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■写真の説明


p2-1
生息地の環境。標高1400mはくらいで、湿度が高いのであろう石はみな苔むしていた(徳島県雲早山, 12-Nov.-2001)。


p2-2
ツノクロツヤムシ成虫。
同じ坑道から見つかったから雌雄かもしれない(同所、同日)。


p2-3
顔のアップ。なかなか立派な角である(同所、同日)。





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