
「たった一度の外出が、命を奪うことも──」
関東で初めて確認された猫のSFTS感染。
見えないマダニの脅威が、いま私たちのすぐそばに迫っています。
人と動物、どちらの命も守るために、正しい知識と予防を。
【警鐘】マダニ媒介感染症SFTS、関東にも拡大 ── 人と動物、共に守るべき命のために
2025年5月、茨城県で飼いネコが重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に感染し、数日で死亡したという報道がありました。関東では初の確認例とされ、マダニを介して感染が広がるSFTSの危険性が、私たちのすぐそばに迫っている現実を突きつけています。
■ SFTSとは?
SFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)は、マダニに咬まれることで感染するウイルス性の人獣共通感染症です。ヒトの場合、高熱・消化器症状・血小板減少などを起こし、重症化すると多臓器不全や意識障害に至ることもあります。致死率は10〜30%と高く、特に高齢者や免疫力の低い人が重症化しやすいとされています。
動物では、特にネコやイヌなど哺乳類への感染が確認されており、ネコでは致死率が60%以上に達するとも言われています。
■ 犬や猫に見られるSFTSの初期症状
SFTSを発症した犬や猫には、以下のような初期症状が見られます:
発熱(明らかな体温上昇)
元気消失・活動性の低下
食欲不振または完全な拒食
嘔吐や下痢
口腔内の出血斑や皮膚出血(血小板減少による)
呼吸が浅くなる、ぐったりする
猫の場合は特に急激に悪化し、症状出現からわずか数日で死亡するケースも多く報告されています。発症後は回復が難しく、早期発見と予防が重要です。
■ 人間に見られるSFTSの初期症状
ヒトがSFTSに感染した場合の初期症状には以下のようなものがあります:
急な発熱(38℃以上)
倦怠感(体がだるく力が入らない)
吐き気・嘔吐・下痢などの消化器症状
頭痛や筋肉痛
食欲不振
血小板や白血球の減少による出血傾向(鼻血、歯茎からの出血など)
これらは風邪や胃腸炎と間違われやすいため、発熱が続く・消化器症状がある・野外活動歴がある、という条件が揃っている場合はすぐに医療機関へ相談することが推奨されます。

■ 感染の現状と地域拡大
これまでSFTSは主に西日本を中心に報告されてきましたが、2024〜2025年にかけて東海・関東エリアでも感染確認が相次ぎ、流行地が北上傾向にあります。特に、草むらや裏山、公園など人とペットが身近に接する場所にもマダニは生息しており、散歩や庭遊びの際に感染リスクが潜んでいます。
■ 外飼い・脱走が引き金に
茨城のネコの事例では、もともと室内飼育されていた個体が一時的に屋外に出てしまったことが感染の引き金になったと見られています。ネコの被毛に付着したマダニがウイルスを保有していた可能性が高く、発症後わずか数日で命を落としています。
これは「少しくらい外に出しても大丈夫」という油断が、命に直結する時代に入ったことを意味します。
■ ヒトへの感染も:飼い主や獣医師にも注意を
SFTSウイルスは、感染動物の体液や血液からも人に感染する恐れがあります。過去には、感染ネコの治療にあたった獣医師が発症した事例も報告されています。マダニの直接的な咬傷だけでなく、ペットを介した二次感染のリスクも想定しなければなりません。

■ 予防と対策
【ペットに対して】
室内飼育の徹底(特に猫)
定期的なダニ予防薬の使用(スポットタイプや経口薬)
散歩後の全身チェックとブラッシング
【人に対して】
草むらなどでは長袖長ズボン、帽子着用
マダニ忌避スプレーの活用(ディート、イカリジンなど)
帰宅後はシャワーと体のチェック(特に首や足の付け根)
【医療・獣医療従事者へ】
感染動物の隔離対応
PPE(個人防護具)の着用徹底
接触後の迅速な消毒と報告
■ 最後に──命を守るのは“日々の配慮”
マダニは、私たちが思うよりも身近に潜んでいます。そして、感染症は「自分とは関係ない」と思っている人を最も脅かします。ネコやイヌを愛するすべての人が、“守る責任”と“行動する勇気”を持ち、この小さなリスクと向き合うことが、命を守る第一歩です。
見えない脅威に、大切な命を奪われないために──。
いま、行動を。
【参考リンク】
厚生労働省 感染症・予防接種ナビ
国立感染症研究所:SFTS情報ページ
動物医療センター:マダニ対策Q&A