
親が倒れたあと、ペットはどうなるのか
― 家族が直面する“想定外の問題”
親が倒れた、入院した、施設に入ることになった。
そんな連絡を受けたとき、多くの家族が真っ先に考えるのは、
仕事の調整
介護や手続き
住まいの問題
ではないでしょうか。
けれど、実際の現場では、
その少し後に、必ず浮かび上がってくる問題があります。
―― ペットを、どうするのか。
家族は、ペットのことをほとんど知らない
親がペットを飼っていることは知っていても、
年齢
持病
フードの種類
病院
性格や癖
そこまで把握している家族は、ほとんどいません。
離れて暮らしていればなおさらです。
「元気にやっているらしい」
それが、唯一の情報だったというケースも少なくありません。
そして突然、
“今日中に判断してください”
という状況がやってきます。
「飼えない」「捨てられない」の板挟み
家族が直面するのは、極端な二択です。
自分では飼えない
でも手放すことはできない
仕事、住環境、アレルギー、家族構成。
現実的に引き取れない事情を抱えながらも、
「家族のペット」を放り出す選択はできない。
この板挟みの中で、
多くの家族が、誰にも相談できずに立ち尽くします。
行政も、愛護団体も、すぐには答えを出せない
「役所に相談すれば何とかなる」
そう思って連絡し、戸惑う方も多いでしょう。
日本では、ペットの飼育は飼い主責任が原則です。
自治体が簡単に引き取ることはできません。
愛護団体も、慢性的な人手不足と資金不足の中で活動しています。
「引き取れません」と言われたとき、
それは冷たさではなく、限界であることがほとんどです。
結果として、
家族だけが取り残される構図が生まれます。
家族にとって一番つらいのは「時間がない」こと
家族側の問題で最も大きいのは、
考える時間がほとんど与えられないことです。
入院は今すぐ
施設入所は期限付き
家は空けられない
その中で、
ペットの性格や適応力を見極める余裕はありません。
本来なら必要な
「段階的な調整」や「一時的な預け先探し」が、
すべて飛ばされてしまいます。
親は、家族に迷惑をかけたくなかった
あとから分かることがあります。
相談しなかったのは、心配をかけたくなかったから
準備しなかったのは、まだ元気だと思っていたから
多くの親は、
「子どもに迷惑をかけない」ことを最優先にしています。
その結果、
何も共有されないまま、限界を迎えてしまう。
これは、誰かの怠慢ではありません。
家族にできることは「引き取る」ことだけではない
ここで一つ、視点を変える必要があります。
ペットの問題は、
必ずしも「家族が引き取る」ことで解決しなくてもいい。
一時的に預ける
環境が整うまで調整する
専門家と一緒に選択肢を整理する
調整役になることも、立派な関わり方です。
「引き取れない=無責任」ではありません。
家族だからこそ、早めに考えてほしいこと
親が元気なうちに、
次のような話題を共有できれば理想的です。
もし入院したら、ペットはどうするか
一時的に頼める先はあるか
病院やフードの情報はどこにあるか
重い話をする必要はありません。
「万が一の時、困るかもね」
その一言で十分です。
私たちに寄せられる相談の多くは「家族から」
実際、私たちが受ける相談の中で多いのは、
親が入院・施設入所することになった
自分では飼えないが、放置もできない
何から考えればいいのか分からない
という、家族側からの声です。
結論を急ぐ必要はありません。
話しながら、現実的な選択肢を整理していく。
それだけで、状況が動くこともあります。
最後に
親が大切にしてきたペットを、
どう扱うか悩むことは、
親との関係を大切にしてきた証でもあります。
完璧な答えはありません。
ただ、
追い込まれてから考えるより、
誰かと一緒に考える場所があることが、
家族を救います。
ペットの問題は、
介護や相続の“あと”に出てくる話ではありません。
実は、
最初に向き合うべき現実なのかもしれません。

