少子高齢化が進む日本において、観光業は地域経済を支える重要な産業のひとつです。その中で、今注目を集めているのが「ペットツーリズム」。犬や猫などのペットと一緒に旅行するスタイルが浸透しつつあり、特に愛犬家を中心とした観光ニーズが急増しています。
この記事では、観光協会、自治体、DMO（観光地域づくり法人）向けに、ペットツーリズムを地域戦略に取り入れることで得られる具体的なメリットや、導入に向けた課題とその解決策を、動物福祉と観光戦略の専門家の視点から詳しく解説します。
なぜ今、ペットツーリズムが注目されているのか？
■ ペットは「家族」──旅行にも同行する時代へ 近年、ペットは単なる愛玩動物ではなく、“家族”として共に暮らす存在になっています。特に犬の場合、休日は一緒に過ごすのが当たり前という家庭も増え、宿泊施設や観光地に「ペット同伴可能」であることが求められています。
■ 市場の成長データ
2023年のペット市場規模：約1.7兆円（矢野経済研究所）
国内で飼育されている犬：約750万頭（2024年時点／ペットフード協会）
愛犬家のうち、旅行で“ペット同伴希望”と回答した割合：70%以上（観光庁ヒアリング調査）
ペットツーリズムは、単なる一過性の流行ではなく、今後も持続可能な観光需要として注目される分野です。
ペットツーリズム導入による地方観光への効果
■ 1. 宿泊率の向上 ペットと泊まれる宿はまだ限られており、需要に対して供給が不足しています。地域内にペット可の宿泊施設を整備することで、他地域との差別化が図れ、宿泊率アップに直結します。
■ 2. 滞在日数・消費単価の増加 ペット同伴旅行は「短時間で詰め込む」よりも「のんびり滞在型」が好まれる傾向があり、
滞在日数：2泊3日以上が主流
消費単価：ペット向け食事・アクティビティ・記念撮影など追加需要あり
施設が整っていれば、「また来たい」「今度は別の季節に」とリピート率も向上します。
■ 3. 地方全体への周遊促進 ペットを連れての旅は、自然環境との相性が良いため、都市圏から郊外・山間部・海岸地域への移動が促進されます。地域連携型でドッグカフェ、ドッグラン、地産地消の飲食店、ペット用お土産などを整備することで、広域での経済効果が期待できます。
導入に必要な基盤整備と課題
■ 1. 施設・設備の整備
ペット可宿泊施設：専用フロアやドッグシャワーの設置
飲食施設：テラス席・ペット用メニューの導入
公共施設：排泄処理・散歩スペースなど衛生対策の明示
■ 2. 地元住民との共生
マナー啓発（吠え・排泄・リード着用）
「ペット可エリア」と「ペットNGエリア」の明確化
住民参加型イベント（例：地元犬と散歩体験、マナー教室）
■ 3. スタッフ教育・ルール策定
ペットアレルギーやトラブル対応への研修
受け入れ基準（サイズ・頭数・ワクチン接種証明）の明文化
成功事例に学ぶ：ペットツーリズムで成果を上げた地域
■ 長野県・八ヶ岳高原エリア
古民家を改修した犬専用宿が開業。1年で稼働率85%以上を達成
地元食材を使った「犬用料理」や足洗い場、山道のドッグトレッキングが人気
■ 広島県・三原市
空き家をリノベーションし、ペット可の町家ホテルに。
地元ガイドと「わんこ街歩き体験」など、住民との交流も創出
地方創生に活かすための戦略提案
■ 地域DMOと連携したマーケティング
SNSで「#犬と旅」「#ペットと地方旅」などの発信強化
ペットインフルエンサーとのコラボツアー
都市圏ターゲットに絞った交通アクセスの提示
■ ペットツーリズム認証制度の創設
一定基準を満たした宿・店舗を「ペット共生認定施設」に
施設地図の発行やガイドライン提供、参加者の表彰制度などで推進
■ 動物福祉を含めたガイドライン監修
過剰なサービスではなく「動物にやさしい滞在」の視点で設計
動物行動学・動物福祉専門家との連携
よくある質問（FAQ）
Q1：小規模な宿泊施設でもペットツーリズムは導入できますか？ A1：はい、可能です。少数の専用客室や小規模なドッグランの整備から始めることで、十分な効果を見込めます。段階的な導入とSNSでの情報発信を組み合わせると効果的です。
Q2：トラブルを防ぐにはどうすればよいですか？ A2：チェックイン時に飼い主へルール説明を徹底し、接種証明や誓約書の取得、スタッフ研修による初期対応力の強化などが鍵です。
Q3：観光資源が少ない地域でも導入メリットはありますか？ A3：はい。自然環境（森、川、田園風景など）こそがペット旅行との親和性が高く、都市部との差別化ポイントになります。
Q4：猫や小動物にも対応できますか？ A4：犬がメインとなりますが、個室型の宿泊やキャットフレンドリーな部屋設計により対応可能です。施設全体の受け入れ方針を事前に明示することが重要です。
ペットツーリズムは、今後の観光業における“成長エンジン”です。ペット同伴旅行者は、滞在時間が長く、支出額も多く、自然や地域文化との親和性も高い観光客層です。
地域の魅力を「人と動物の絆」として再発見し、持続可能な観光資源として活かしていくことが、これからの地方創生のカギになるでしょう。
自治体・観光協会・DMOの皆様へ── ペットツーリズム導入にご関心があれば、ぜひ専門家による監修・コンサルティングをご検討ください。
