
犬が15年生きるとして、
そのうちの5年は眠って過ごす。
ぐっすりと目を閉じる時間の多くは、
あなたの近くで安心を確かめながら流れていく。
匂いを読み解くことに3年。
世界の秘密を探すように、
道端の草一本から今日の“物語”を拾い集めている。
あなたの声を待つのに2年。
名前を呼ばれるたび、胸の奥で小さな灯りがともる。
その灯りを頼りに、何度もあなたを探しあてる。
家を守るために耳を澄ますのに1年。
深夜の気配にも、玄関の足音にも、
あなたの無事だけを確かめるように。
…そして残された4年だけが、
“ただ好きに過ごせる時間”なのだという。
その4年のひとかけらを、
今日もあなたの足もとにそっと落としていく。
散歩中にふと振り返る仕草も、
寝息の合間に寄り添ってくる温もりも、
その大切な一片にすぎない。
いつか拾いきれなかった一片が、
静かに胸の中で形を変え、
思い出として息をしはじめる日が来る。
だからどうか、
今日あなたのそばに落ちたそのひとかけらだけは、
手のひらでそっと受け止めてほしい。
犬が生きる時間は、
あなたの時間よりも少し急ぎ足だ。
だからこそ、
“今日” の重みは、
あなたが思うよりずっと深い。

