
猫・ヤギ・ヒツジ…撮影や展示で“当たり前にされていること”の本当の問題点
【質問】
映画のロケで猫を連れて現地入り。
屋外ロケにもかかわらず、日陰も待機場所もない環境で、キャリーケージの中に10時間以上拘束。
さらに往復で4時間の移動がありました。
これは法律的に問題ないのでしょうか?
【結論:これは違法または行政指導の対象になる可能性があります】
動物を商業撮影に使う場合、動物の福祉を守るために守らなければならない法律とガイドラインがあります。
今回のような「長時間の移動+屋外拘束+待機環境不備」という三重の問題を抱えるケースでは、動物愛護管理法違反や動物虐待に準ずる行為とみなされる可能性があります。
【一般の方向け解説】
● 実は、撮影で動物を使うには「法律」があるんです
「ペットを映画に出しただけ」「キャリーで待たせただけ」と思っていても、
映像制作に動物を使うには、動物愛護管理法の“業としての使用”に該当する厳密なルールが定められています。
その中で特に重要なのが以下の2点です:
【1】動物を不適切に拘束・管理することは禁止されています
→ 猫のような感受性の高い動物を、長時間キャリーに入れたまま、炎天下で放置するような行為は、
**「動物の虐待または適正な飼養保管義務違反」**に該当するおそれがあります。
【2】動物の移動・待機も含めた“撮影管理”が必要です
→ 片道2時間の輸送、10時間の待機は猫の身体的・精神的な限界を超えている可能性があります。
動物には適切な休息・水分・日陰・温度管理が求められます。
【テレビ局・制作会社の法務・コンプライアンス部門向け補足】
■ 法的リスクと業務責任
▶ 動物愛護管理法 第44条、動物愛護管理基本指針(環境省)
・動物をみだりに虐待してはならない。
・業として動物を取り扱う者は、飼養管理について適正な措置を講じなければならない。
これに違反した場合は:
行政指導・改善命令の対象
最悪の場合、刑事罰(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)
▶ 動物取扱業者の登録義務(第10条)にも抵触の恐れ
ロケに動物を同行させて営利目的で使用している場合は、第一種動物取扱業の登録が前提です。
登録業者であるにもかかわらず動物の基本的福祉管理がなされていない場合は、登録取消や業務停止のリスクがあります。
【映像制作現場に求められる最低限の配慮】
配慮項目 | 内容 |
---|---|
待機環境 | 日陰、通風、冷却設備(車両またはテント等)を確保 |
待機時間 | 長時間拘束を避け、こまめな休息と交代を設ける |
給水と衛生 | 飲水・トイレ管理を徹底する |
拘束方法 | キャリーのみの長時間拘束は原則NG。運動・ストレス発散の時間を用意 |
【まとめ:動物の“出演”に潜む人間側の責任】
動物は「道具」ではありません。
作品の中で命を使うということは、その命に責任を持つ義務があるということです。
「かわいい」「リアルだから」「演出上仕方ない」
――そういった理由で動物が過酷な状況に置かれる現場は、いまや視聴者にも見抜かれ、批判される時代です。
制作のプロとして、法律の遵守だけでなく、動物の立場に立った配慮と仕組みが求められています。

【質問】
家族で訪れたテーマパーク内にある動物展示コーナーで、気になる光景を目にしました。
真夏日で気温が30度近くある中、ヤギやヒツジが日陰のない囲いの中に閉じ込められたままになっており、
長時間その状態が続いているように見受けられました。
動物たちはぐったりと立ち尽くし、明らかに暑さに苦しんでいる様子だったため、
心配になって近くにいた施設スタッフの方にお話を伺ったところ、
「日陰になるようにパラソルを置いています」
「上からは(管理者に)大丈夫だと言われているので」
といった返答がありました。
しかし実際には、そのパラソルの影が動物たちに届いておらず、
納得できる説明をいただけたとは感じられませんでした。
このような炎天下での日陰もない展示方法は、動物たちにとって過酷すぎるのではないかと思い、
何らかの法律に違反していないか、また、改善してもらうにはどこへ相談すればよいのか知りたく、お問い合わせさせていただきました。
【結論:その展示は「動物愛護管理法」違反の可能性があり、通報先も明確にあります】
【一般の方向け解説】
動物園やテーマパークでヤギ・ヒツジなどの家畜が展示されることは珍しくありませんが、
それでも動物たちは「生きている命」であり、最低限の暑さ対策やストレス対策を講じることが“法律で義務付けられています”。
❗ 気温30度を超える真夏の屋外展示で「日陰がない」状態は、明らかに異常です。
■ 法的にはどうなるのか?
日本では「動物愛護管理法」によって、展示動物を扱うすべての施設(動物園、テーマパーク、移動展示など)は以下を守らなければなりません。
🔹【義務その1】「適正な飼養・保管」(法第7条)
動物の種類・習性に応じて、暑さ・寒さ・ストレスなどに配慮した飼育管理を行わなければならない。
→ 夏季には日陰・水分補給・休息場所などを必ず用意することが求められています。
🔹【義務その2】「動物取扱業者の遵守基準」(環境省告示)
展示施設は**「第一種動物取扱業」の登録施設**です。
環境省の定める基準では、動物の健康を守るために以下が求められています:
基準項目 | 内容 |
---|---|
温度・湿度管理 | 屋外でも、気温や直射日光に配慮し、適切な日陰・風通しのある場所を確保する |
疲労・ストレス管理 | 動物が過度な疲労・熱中症・衰弱を起こさないように環境を管理する |
▶ 今回のように、30度近い気温下で日陰がなく、屋外にヤギ・ヒツジを閉じ込めたままという行為は、明確にこれらの基準を逸脱している可能性があります。
■ どこに通報すれば改善される?
動物に関する法的指導・監督を行っているのは、**その地域を管轄する自治体の「動物愛護センター」「動物指導課」**です。
通報は匿名でも可能です。
📝【通報先の例】
○○市(○○県)動物愛護センター
○○県 健康福祉部 生活衛生課 動物管理担当
環境省 動物愛護管理室(重大事案や改善されない場合)
■ 通報時のポイント
「施設名・展示の種類・日付・気温・動物の様子」を具体的に記録
可能であれば写真や動画の添付(ただし盗撮は不可)
「心配になったので確認したところ、納得できる説明がなかった」という流れを伝えると説得力があります
【展示施設・テーマパークの法務・運営部門向けの補足】
⚠️ その環境、“違法性”だけでなく“企業イメージ毀損リスク”も伴います
夏場における動物の熱中症・死亡事例は全国で問題視されており、SNSやメディア経由で一気に炎上・拡散する傾向があります。
「パラソルがあるから」「管理者がいいと言っている」などの形式的な説明では通用しない時代です。
動物展示の適正管理は「ブランドイメージの信頼」に直結します。
「施設の見せ物」ではなく「命の展示」であるという倫理的認識が、今後の展示施設にはより強く求められます。
✅ 施設側が取るべき改善策
対策項目 | 推奨内容 |
---|---|
日陰の設置 | 固定屋根、遮光ネット、移動可能な日よけを十分に配置する |
水分補給 | 飲水器の常設、定期的な補充とチェック体制の強化 |
飼育員研修 | 動物福祉・気温管理・ストレスサインに関する社内研修の実施 |
苦情対応 | 説明責任を果たし、SNSなどで情報公開も検討する |
【まとめ】
暑さの中で、ただ黙って立ち尽くすヤギやヒツジの姿――
それを見て違和感を抱いたなら、あなたの感覚は正しいです。
動物の命を守るために必要なのは、**“気づいた人が声を上げること”**と、
“施設側がきちんと責任を持つこと”。
このふたつが重なることで、動物と人が安心して共存できる展示が実現します。

【質問】
保護猫カフェを運営しています。
制作会社から映画の撮影に猫を出演させたいと連絡があり、宣伝にもなるかと思い引き受けました。
当日は朝7時にスタジオ入り、控室はあったものの、実際に猫が撮影されたのは数シーンだけ。
終了は夜10時すぎ、合計15時間以上も拘束されました。
また、当店は**「展示業」の登録しかない**ことを事前に伝えましたが、「タイアップなので無償なら問題ない」と制作会社から説明されました。
このようなケースに法律的な問題はあるのでしょうか?
【結論:この撮影は“違法または行政指導対象”となる可能性が高いです】
本件では、以下の3つの観点で問題がある可能性があります:
① 【第一種動物取扱業の“登録区分の違反”】
動物愛護管理法では、営利・無償を問わず「撮影利用」は「展示業」ではなく「貸出業」または「展示(撮影用途)」として別途の登録が必要です。
▶ 今回のケースでは、
カフェ側が「展示業」のみで「撮影目的の外部提供」を行った
制作会社は「タイアップだから問題ない」と誤解していた
この2点により、法的には「無登録での動物取扱(貸出)」とみなされる可能性があります。
② 【動物の長時間拘束は“適正な飼養管理義務違反”の恐れ】
たとえ控室があっても、15時間以上の拘束、しかも猫の登場シーンがごくわずかだった場合、
「動物の福祉が十分に考慮されていなかった」と判断されるおそれがあります。
環境省の定める「動物取扱業者の遵守基準」においても、
動物の移動・拘束において、過度なストレスを与えないこと
撮影等で使用する場合は、必要最小限の時間・回数に留めること
という記載があり、今回のような拘束は、動物の精神的ストレスや体調悪化のリスクが高いとされています。
③ 【制作会社側の“法令理解不足”と説明義務違反】
「タイアップだから無償なら問題ない」という説明は、
法的には誤りです。
動物愛護管理法においては、
**対価の有無ではなく、“営利目的であるかどうか”と“反復性があるかどうか”**が基準となります。
映画という営利目的の映像作品に使用された時点で、業としての使用に該当します。
さらに、第三者(今回はカフェ)から提供を受けた動物を使用する場合、制作側には法的責任と管理義務が発生します。
【一般の方向けまとめ】
「猫を宣伝に使ってもらえるからいいかな」と思って引き受けた撮影でも、
法的には“動物の貸出し”や“営利目的利用”と判断されることがあります。また、長時間の移動や拘束は、猫にとって非常に大きなストレスです。
→ これは**法律違反ではなくても、“動物の虐待に近い行為”**と見なされる可能性もあります。
【制作会社・放送局の法務・コンプライアンス部門向けの警鐘】
タイアップ・無償協力・プロモーション出演であっても、動物を撮影に使用する限り、第一種動物取扱業の登録区分を遵守する必要があります。
動物の使用にあたり、「健康状態・輸送環境・待機時間・拘束状況」まで管理責任があります。
とくに保護猫カフェのような公共性・社会性を帯びた場所との協力においては、
コンプライアンス違反がそのまま“企業イメージの毀損”につながる重大なリスクです。
【今後に向けて必要な対応】
項目 | 推奨対応 |
---|---|
カフェ側 | 撮影協力にあたっては「貸出業」または「撮影用展示業」への登録変更・追加を検討 |
制作会社側 | 動物を扱う際の「撮影ガイドライン」「拘束時間管理」「リスクマネジメント体制」の構築 |
両者 | 曖昧な“無償・タイアップ”の解釈を避け、契約・合意書等で事前に責任と範囲を明確化 |
まとめ
今回のケースは、動物を大切にしている立場の保護猫カフェと、低予算での撮影を模索する制作会社の意図が間違った形で繋がってしまった結果でもあります。
しかしながら、動物の出演には**「かわいい」だけでは済まされない命への責任と法的義務**があることを、映像業界全体が再確認すべき時代に入っています。

動物の命と信用を守るために ― リスクを避ける3つの基本原則
① 「撮影だから特別」は通用しない―すべての動物使用に“登録と責任”が伴う
映画やドラマで使われる動物は、たとえ知人のペットや保護猫であっても、“業としての使用”に該当する場合があります。
展示業しか登録がない施設や、スタッフの私物を使った撮影は、法令違反や指導の対象になるリスクがあります。
② 拘束時間・移動距離・気温管理―“負担の見えない現場”ほど危険
猫を15時間スタジオに拘束する。ヤギやヒツジを真夏の日差しの中に置き去りにする―
それが「当たり前」と思われている現場ほど、動物のストレスと危険は深刻です。
見えないところで命が削られているという意識を、現場にいるすべての人が持つべきです。
③ 不明点は“そのまま進めず”、確認と対話を最優先に
「大丈夫と言われたから」「無償だから問題ないと聞いたから」―
こうした言葉に安心せず、都道府県の動物愛護センターや環境省への事前確認を習慣にしましょう。
現場での“ちょっとした疑問”を放置せず、ひとつずつ解消することが、法令違反も炎上も未然に防ぐ最短ルートです。
動物と共に仕事をするすべての人へ
動物は、撮影の道具ではありません。展示のアクセントでもありません。
そこにいるのは、「感じて、生きている命」です。
一見、些細に見える無理や雑さ―
それが命を脅かし、信頼を壊し、業界そのものの倫理観を問われる事態につながります。
“バレなければいい”はもう通用しない時代です。
SNSや市民通報が日常となったいま、不適切な現場対応は一瞬で可視化され、信用を失います。
だからこそ、私たちに求められているのは、**「あたりまえのことを、あたりまえに守る姿勢」**です。
命に向き合う仕事の中で、
動物たちにとって「ちゃんと守ってくれる人」でありたい。
そう思ってくださるすべての方と、一緒に環境を変えていけることを願っています。