
ちょっとだから大丈夫”は通用しない!? 動物・昆虫を使った撮影で起こりうる法律違反と現場の落とし穴
【質問】
ドラマに登場するカメ(亀)を、主人公の“ペット”として描くために、撮影スタッフがペットショップで購入し、テレビ局内で飼育しながら撮影に使っていました。
これは法律的に問題ないのでしょうか?
【回答:一般の方向け】
結論から言えば、ケースによっては“違法”になる可能性があります。
「自分の飼っているカメをテレビに出しただけ」と思われるかもしれませんが、
テレビドラマの撮影=営利目的での動物の使用にあたります。
この場合、「動物愛護管理法」によって定められている**「第一種動物取扱業」の登録」が必要になることがあります。**
もし登録をせずに、繰り返し撮影に使っていたとすれば、
→ 無登録営業とみなされる可能性があり、法律違反となることがあります。
また、カメの種類によっては、
特定外来生物に指定されている種(例:ミシシッピアカミミガメ)
などは飼育や展示自体が禁止されている場合もあるため、特に注意が必要です。
【法務・コンプライアンス部門向け補足】
■ 違法性が問われる主な根拠:
動物愛護管理法 第10条(第一種動物取扱業の登録義務)
→ 動物を「展示・撮影利用」など営利目的で反復的に取り扱う場合は、都道府県への登録が義務付けられています。
今回のように、
- テレビドラマの継続的な撮影に使用
- 撮影スタッフが業務の一環として動物を管理・飼育していた
という事実がある場合は、「業に準ずる行為」と判断される可能性が非常に高くなります。
外来生物法(外来生物法第4条)
→ たとえばミシシッピアカミミガメ(いわゆるミドリガメ)は、2023年より「条件付特定外来生物」に指定されており、
無許可での飼育・譲渡・展示・撮影使用は禁止されています。
【コンプライアンス的観点からのリスク】
動物取扱業の無登録使用が明らかになれば、放送局や制作会社の社会的信用に大きな影響を与えかねません。
特定外来種だった場合は、環境省や都道府県による指導・処罰の対象となりうる事例です。
また、カメの管理状態が不適切であれば、「動物虐待等」として通報されるケースも想定されます。
【対応の推奨】
事前にカメの種の確認(外来種・保護種かどうか)
撮影に用いる動物は、第一種動物取扱業の登録事業者からのレンタルが原則
やむを得ず内部で飼育・使用する場合は、都道府県への登録手続き+飼養管理記録の整備が必須
【結び】
「ペットだから」「飼っているだけだから」といった感覚で撮影に使ってしまうと、
法律上は“営利目的での動物使用”と判断され、罰則や行政指導の対象となる場合があります。
テレビ局・制作会社としては、
動物の福祉とコンプライアンスを両立する体制の整備が、今後ますます求められていきます。

【質問】
ドラマに登場する犬を、撮影スタッフの実家で飼っている犬や、ペットショップから“無償で”借りてきた犬で代用して撮影するのは、法律的に問題ありませんか?
【回答:一般の方向け】
一見すると、「家の犬を出しただけ」「借りただけ」「お金ももらってないから大丈夫」と思われるかもしれませんが、
実際は法律に違反する可能性があります。
なぜなら、たとえ無償であっても、犬をドラマやCMなどの商業作品に出演させる行為は、
法律上「営利目的での動物の使用」と見なされるからです。
この場合、「動物愛護管理法」という法律によって、
犬を**撮影に使う事業者(個人・法人問わず)**は、第一種動物取扱業の登録が必要になります。
▶ 登録せずに撮影に使えば“法律違反”です。
【法務部・コンプライアンス部門向けの補足説明】
■ 法的根拠と問題点
動物愛護管理法 第10条(第一種動物取扱業の登録義務)
営利目的で動物を「展示・撮影・貸出」などに使用する場合、都道府県への登録が必須です。
→ 無登録で撮影に使用した場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金(第47条)
▼ つまり:
スタッフ所有の犬であっても
→ 「スタッフを通じて制作会社が使用」していれば、“業としての使用”と解釈される可能性が高いです。ペットショップから無償で借りた場合も
→ ショップ側が「貸出」に該当する行為を無登録で行っていれば違法となるほか、
→ 局や制作会社も“違法行為に加担している”とみなされるリスクがあります。
■ コンプライアンス上のリスク
「無償だからOK」という誤認識によって、制作現場で登録のない動物を使用するケースが後を絶ちません。
一度でもSNSや第三者から指摘・告発された場合、
→ 倫理面だけでなく、放送局全体の信頼性にも大きな打撃を与えることになります。特に動物事故(逃走・咬傷・過度な拘束)等が発生した場合は、
→ 安全管理義務違反や動物虐待の疑いで行政指導・調査対象になる恐れもあります。
【推奨される正しい対応】
状況 | 対応方法 |
---|---|
自宅やスタッフの犬を使用したい | 制作会社または飼い主が第一種動物取扱業を登録済みであることが前提。登録がない場合は使用すべきではありません。 |
ペットショップ等から借りたい | ショップ側が「動物取扱業(貸出)」の登録をしているか確認必須。 登録のない貸出は違法行為です。 |
安全・法令順守の確実な方法 | 登録済の動物プロダクション等から出演犬を手配するのが最も安全です。保険・健康管理体制も整っています。 |
【まとめ】
いまや動物出演に対する社会の目はとても厳しくなっています。
“無償だから”“一回だけだから”という感覚で使用すると、法令違反やコンプライアンス違反に直結する危険性があります。
動物の命と人の信頼を守るためにも、法律に基づいた管理体制の整備が不可欠です。

【質問】
ドラマに登場するカブトムシやカタツムリを、撮影スタッフが山や公園で採集してきて撮影に使うのは、法律的に問題ありませんか?
【回答:一般の方向け】
一見すると、「虫をちょっと採ってきただけでしょ?」「野にいるものだから自由に使えるのでは?」と思われがちですが、
採集する場所や昆虫の種類によっては、違法になる可能性があります。
たとえば――
国立公園や保護区などで勝手に昆虫を採集することは、自然公園法や森林法に違反します。
外来種や保護種の昆虫を無許可で捕まえたり、撮影に使ったりすると、**環境省の定める法律(外来生物法・種の保存法)**に違反することになります。
さらに、ドラマなどの商業作品で昆虫を撮影に使う場合は、反復的な営利目的の「展示等」と見なされる可能性があり、別のルールも関係してきます。
【法務・コンプライアンス部門向けの解説】
■ 問題となる可能性がある法的ポイント
1. 【採集行為に関する法律】
法律名 | 違反例 | ペナルティ |
---|---|---|
自然公園法 | 国立公園・保護地域内で無許可採集 | 最大6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
森林法 | 国有林・保安林等での採集行為 | 管轄林野庁への届出義務違反など |
地方条例 | 都市公園内の昆虫採集を禁止している自治体あり | 条例違反(指導・罰則) |
✅ 採集場所に応じて、事前の許可申請や管理者への届出が必要な場合があります。
2. 【種に関する規制】
カブトムシやカタツムリといえど、種類によっては規制対象です。
種別 | 具体例 | 規制内容 |
---|---|---|
外来種 | アフリカマイマイ等のカタツムリ類 | 外来生物法により飼育・移動・展示が規制される(無許可使用で罰則対象) |
希少種・天然記念物 | ヤマタカマイマイ等 | 捕獲・使用は原則禁止(文化財保護法・種の保存法) |
✅「普通種」と思い込んで採集した結果、実は規制種だったというケースが多発しています。
3. 【撮影利用に関する法的位置づけ】
動物愛護法の「第一種動物取扱業」では、原則として哺乳類・鳥類・爬虫類等が対象ですが、
環境省の通知では、昆虫であっても反復継続的に営利目的で利用する場合には、“業”に準ずる行為として扱うことがあるとされています。
✅ つまり、繰り返しの撮影や公開を目的として社内で保管・使用する場合、
登録のないまま継続使用すれば、グレー~違法と見なされるリスクがあります。
【コンプライアンス的リスク】
採集場所の確認・管理が不十分だと、不法採集や環境破壊として指導・批判の対象になります。
特に教育番組や児童向けドラマなどでは、社会的倫理観に対する批判が強くなる傾向があります。
また、動植物保護を目的とする団体からの監視・通報対象となる可能性もあります。
【適法かつ安全な撮影のためにできること】
方法 | 理由 |
---|---|
種類の特定(外来・保護種か) | 環境省や都道府県のリストで確認 |
採集場所の確認・許可申請 | 国有地・公園・保護区などでは要確認 |
登録済みの昆虫ブリーダーやプロダクションに依頼 | 使用目的が明確で、リスクを回避できる |
必要に応じて撮影後の適正な管理・リリース禁止 | 外来生物や環境破壊のリスクを回避するため |
【まとめ】
カブトムシやカタツムリといった一見“身近な昆虫”であっても、
採集方法・使用目的・場所・種によっては法律違反になる可能性があります。
テレビ局や制作会社としては、
動物の利用に関する法令だけでなく、自然環境保全の観点も含めたコンプライアンスの強化が求められています。

リスクを避けるための3つの基本原則
「無償」「個人所有」でも、商業作品での動物使用は“業扱い”され得る
使用する動物や昆虫の種・採集場所・管理方法に注意
不明点があれば必ず都道府県の動物愛護センター・環境省窓口に事前確認を
法律だけでなく「社会的信用」も問われる時代に
動物や昆虫を作品に登場させるという行為には、「命」を扱うという意味が伴います。
いまや視聴者やSNSユーザーの目も鋭く、たった一度の法令違反や不適切な取り扱いが、局や制作会社の信用を大きく損なうリスクがあります。
動物福祉と環境への配慮は、映像業界においても“作品づくりの一部”。
撮影現場の安全と社会的責任を守るためにも、事前の確認と法令遵守の徹底が何より大切です。