「タヌキの十戒」… これは、懐かない彼らが、信じたくて紡いだ言葉たち。人の世界に来てしまった命から、あなたへ。 ① わたしを“懐くかどうか”で測らないでください。 あなたに近づけた日は、わたしが勇気をふりしぼった日です。 逃げた日は、きっとそれ以上の恐怖があっただけ。② どうか、わたしに逃げ道を残してください。 本能は「隠れること」で命を守ろうとします。 追いつめられたとき、わたしは“無”になってしまいます。③ 驚かせないでください。 大きな音、まばゆい光、急な動き… あなたにとって何気ない刺激が、わたしには生死を分ける衝撃です。④ わたしが“動かない”のは、気まぐれでも怠けでもありません。 それは、防衛であり、絶望であり、 心と体が止まってしまった証です。⑤ 触れてほしい日と、触れられたくない日があります。 どちらも、わたしの“ありのまま”です。 愛してくれるなら、距離のある愛し方も覚えてください。⑥ たとえ人に育てられても、わたしの中の“野生”は消えません。 夜に動き、においを残し、静けさを好むのは、 生まれ持った、生き延びるための術です。⑦ わたしが何かを壊したり、噛んだりしたら… その前に、わたしの不安を見てください。 わたしは、あなたの言葉を理解できません。 でも、あなたが怒った声には、深く傷つきます。⑧ “かわいい”と言われるたび、少しだけ悲しくなります。 その言葉の奥に、責任や覚悟がなければ… わたしはまた、都合よく扱われてしまうから。⑨ 老いても、病んでも、 どうか見捨てずにいてください。 人のそばで生きることになった命には、 人の責任で、最期まで見届けてほしいのです。⑩ わたしが静かに息を引き取るそのとき、 どうか、あなたの声を最後に聞かせてください。 あなたに愛されたと、 信じたまま旅立てますように…。 タヌキは「懐く動物」ではありません。それでも、信じてみたいという気持ちを、どこかに持っています。人の世界で生きていくことになった命には、ただの優しさでは届かない、深い理解と想像力が必要です。「かわいい」という感情の先にある現実を、「懐かない」と見える行動の奥にある不安を、どうか、そっと見つめてあげてください。『タヌキの十戒』は、ひとつの命が、あなたに向けて精一杯伝えようとしている声です。その小さな、声にならない声が…いつか、あなたの心に届きますように。