
野良猫の命はどこまで生き延びられるのか
――日本のデータが示す、子猫の生存率と猛暑の影響
はじめに
夏の夜、私たちはクーラーの効いた部屋で眠ります。
その同じ時間に、外で生きる野良猫の子猫たちは、どれほど過酷な環境を生き延びているのでしょうか。
近年、日本の猛暑は「命に直結する」レベルにまで達しています。ここでは、日本国内の研究・統計データに基づき、野良猫の子猫の生存率と寿命、そして猛暑がもたらすリスクについて整理してみます。

1. 子猫の生存率 ― 国内研究が示す数字
日本国内で明確に示された一次データがあります。
長崎の大学構内で行われた調査では、生後8か月までに生き残った子猫はわずか43%。
裏を返せば、57%が8か月の時点で死亡または不在となっていたのです(tust.repo.nii.ac.jp)。
この数字は「管理や給餌がある環境」での結果であり、街中の過酷な条件ではさらに低下する可能性があります。
2. 公的統計から見える「子猫の脆さ」
環境省の統計(2023年度)によると、殺処分された猫6,899頭のうち、**幼齢個体が4,036頭(約58.5%)**を占めていました。
つまり、行政に持ち込まれる時点で「子猫が最も命を落としやすい」構造が続いているのです。
さらに、2019年には全国推計で約28万9千頭の猫の遺体が自治体によって回収されています(human-animal.jp)。
事故死や衰弱など、屋外での死亡圧がいかに大きいかが浮き彫りになります。

3. 猛暑という新たな試練
気象庁と環境省の報告(『日本の気候変動2025』)は、猛暑日・熱帯夜が増加傾向にあることを示しています。
2018年や2023年の記録的猛暑は「温暖化による底上げなしには起こり得なかった」と整理されており、今後も増加が予測されています。
一方、アニコム損保のデータによると、2024年だけで猫の熱中症171件が報告されており、発生は4〜5月から始まり、7〜8月にピークを迎えています。
「夏の入り口」からすでに危険が始まっているという国内実データです。
→ 子猫の生存率43%という数字は、猛暑によってさらに下がりかねないのです。
4. TNRと支援活動の効果
野良猫の数や命を守るうえで効果的とされるのが、**TNR(捕獲・不妊手術・元の場所に戻す)**です。
国内の調査では、モデル地区でTNRを実施した結果、推定個体数が9%減少し、不妊手術が猫の移動距離を縮め、事故や争いを減らす効果も報告されています。
また、地域猫活動が行われている地域では、成猫の死亡率が低く、子猫死亡例も少ない傾向が観察されています。
さらに行政が取り組む「ミルクボランティア」制度も、乳幼猫の生存機会を広げる仕組みとして位置づけられています。

5. 猛暑期にできる支援 ― 実務的チェックリスト
国内の観察や臨床データを踏まえ、次のような工夫が推奨されます。
日陰と通風のある簡易シェルター(地面から少し底上げして蓄熱を防ぐ)
複数の水皿を設置(浅く清潔な水を、夜間も補給)
給餌は涼しい時間帯に短時間で(腐敗防止)
金属食器を避ける(高温による忌避防止)
高齢・病弱な猫の巡回頻度を上げる
TNRと乳幼猫の預かりを組み合わせる
小さな工夫の積み重ねが、命の生存確率を押し上げます。
6. 今後の課題と研究の必要性
現在の日本データにはまだ大きなギャップがあります。
特に不足しているのは:
野良猫の寿命を直接推定するコホート研究
WBGTや猛暑日連続日数と生残率の関係を定量化する都市別データ
地域で出生数・生残数・気温指標・支援活動の有無を記録していくことで、「何℃・何日続いたら命が落ちるのか」という関係性を日本独自のデータで示せる可能性があります。

おわりに
野良猫の子猫――その生後8か月の生存率はわずか43%。
そして日本の猛暑は年々厳しさを増し、子猫たちの未来をさらに削り取っています。
けれど、私たちにできることがあります。
水を置くこと。日陰をつくること。TNRを進めること。
その小さな一歩が、命の確率を変えるのです。