
産業動物の福祉基準、虐待防止の強化、取扱業の許可制へ…2025年、日本の動物福祉が大きく動き出す。
2025年の動物愛護法 改正ポイントと現場への影響
2025年に予定されている「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」の改正は、動物福祉の水準を国際的な基準に引き上げるための重要な一歩として注目されています。 今回の改正案では、特に産業動物の福祉向上、動物虐待への迅速な対応、動物取扱業の規制強化が主要なテーマとなっており、実際の飼育現場や業界の運営体制にも大きな影響を与える見通しです。
改正ポイント1:産業動物の福祉規定の明確化
これまで明確な規定が設けられていなかった産業動物(畜産動物)について、以下のような具体的な義務と基準が新たに盛り込まれる予定です:
「5つの自由」の明記:飢え・渇き、不快、痛み・病気、正常行動の表現、恐怖や抑圧からの自由を基本とする飼育管理の義務化。
屠畜時の意識喪失義務:屠殺や処分を行う際には、適切な方法で動物を意識喪失させることが必須に。
飼育密度・環境の基準化:動物が自然な姿勢で休息・行動できる空間の確保が義務化。
外科的処置時の麻酔義務:去勢・断尾・除角などの外科的行為に対して、麻酔や鎮痛処置の義務が課される。
これらの措置は、国際獣疫事務局(WOAH)などの国際動物福祉基準に準じたものとなっており、日本国内の畜産業界にも体制の見直しが求められます。農林水産省が公表する「動物の飼養及び保管に関する基準」や「家畜福祉の向上に向けた取組ガイドライン」も根拠資料として参照される予定です。
改正ポイント2:動物虐待への対応強化
動物虐待の早期発見と迅速な保護を目的に、以下の制度整備が検討されています:
緊急一時保護制度の創設:動物虐待の疑いがある場合、警察や自治体職員が飼い主の同意を待たずに一時的に動物を保護できる制度が導入される見込みです(※動物愛護法第44条関連の拡充)。これにより、虐待の深刻化を防ぐ迅速な対応が可能になります。
所有権停止・剥奪制度の導入:動物への虐待や不適切な飼育が認められた場合に、行政の判断で飼い主から所有権を一時停止・あるいは恒久的に剥奪できる制度です(民法改正との整合も課題)。これにより、動物が再び虐待環境に戻されるリスクを回避できます。
対象動物の拡大:これまで犬・猫を中心としていた保護対象が、今後はすべての脊椎動物(鳥類、爬虫類、両生類、魚類など)にも拡大される方向です(※動物愛護法第2条、第7条などの対象種定義の見直し)。
また、虐待の定義も細分化され、「身体的虐待」だけでなく「精神的虐待」「飼育放棄」などの項目が法文化される可能性があり、これにより立件のハードルが下がることも期待されています。近年はSNS等による内部告発や映像証拠の重要性も高まっており、法改正後は行政の調査権限も強化される見通しです。
改正ポイント3:動物取扱業の規制強化
動物の適正な取り扱いを促進するため、動物取扱業に対する以下のような規制が強化される予定です:
登録制から許可制への移行:これまでは動物取扱業に対して比較的緩やかな「登録制」が採用されていましたが、改正後はより厳格な「許可制」に移行し、行政が定期的な審査・監査を行えるようになります(※動物愛護法第10条の改正)。これにより、倫理的・技術的に問題のある事業者の排除が進みます。
許可基準の厳格化:許可取得のためには、動物福祉に関する研修の受講義務、適正な飼育環境の整備、法令遵守の履歴確認などが必須要件として追加される見通しです。これらは「動物取扱業者に対する標準指針」の改訂として告示される予定です。
移動販売や展示販売の原則禁止:動物を狭いケージや車内に閉じ込めることで生じるストレスや健康被害への懸念から、ショッピングモール内や路上、イベント会場などでの「移動型販売」は原則禁止の方向で議論が進んでいます。
野生動物の商業利用制限:展示施設やふれあいカフェなどで扱われる野生動物の商業的利用についても、許可制の強化や種の限定が検討されており、違法輸入や乱繁殖の抑止につながると期待されています。環境省による「外来生物法」や「特定動物制度」との整合性も求められます。
このような規制強化は、動物取扱業の健全化を図るだけでなく、消費者や観光客に対する動物関連サービスの信頼性を高める意味でも大きな意義を持っています。
現場への影響と課題
この法改正により、動物福祉の水準は確実に底上げされると考えられますが、一方で現場には次のような課題も出てくるでしょう:
畜産業における施設改修や飼育方法の変更に伴うコスト増。
動物取扱業者への教育・再研修体制の整備。
地方自治体における監視・執行体制の強化。
保護動物の受け入れ先不足や一時保護施設の整備問題。
獣医師や動物福祉専門職の人材不足と技術支援体制の確保。
特に小規模業者や自治体にとっては、準備や運用コストの増大が懸念されており、今後は国や関係団体による支援制度の整備が求められます。また、動物福祉の国際基準と国内制度とのギャップをどう埋めていくかも中長期的な課題です。
おわりに
2025年の動物愛護法改正は、日本における動物福祉政策の大きな転換点となります。産業動物の扱いから、家庭で飼われるペット、動物取扱業の在り方に至るまで、社会全体が「命」に対する価値を再認識し、より優しい仕組みづくりへと進むための土台が築かれようとしています。
私たち一人ひとりが、この改正の意味を理解し、動物と共に生きる社会の担い手として行動していくことが求められています。
