
“命を演出に使う”ということ…文鳥撮影をめぐるQ&Aと映像倫理
❓Q1:寒空の屋外で文鳥をノーリード状態で飛ばしていたようですが、これは違法ではないのですか?
✅A:違法性の可能性があります。鳥類の特性と動物福祉の観点からも、極めて問題のある行為です。
文鳥は熱帯~亜熱帯が原産の小型鳥類で、気温10℃以下では命の危険が高まる繊細な動物です。撮影現場でスタッフが防寒具を着用していたことからも、屋外環境が低温だったことは容易に推測されます。
このような条件下で、ノーリードで放鳥する行為は、逸走、負傷、捕食、低体温症など複数のリスクを伴います。
たとえ合成処理が加えられていたとしても、「実際に生体が使用されていた可能性がある」と視聴者に感じさせる演出は、社会的な責任が問われる内容です。
❓Q2:文鳥が木に縛られて逆さ吊りにされていたという通報がありました。これは動物虐待になりませんか?
✅A:もし事実であれば、動物虐待に該当する可能性は高いです。
ただし、現時点では該当する映像の確認は取れておりません。事実確認を行った上での判断が必要です。
通報者からは「第7話の31分10秒付近で、木に文鳥が縛られ逆さ吊りにされているシーンがある」との指摘がありました。
仮にそのような演出が存在した場合、動物に対して不必要な苦痛を与える行為は、動物愛護法第44条に定める“みだりな虐待”に該当する可能性があります。
なお、当委員会では引き続き該当映像の確認作業と、関連資料の精査を進めております。
❓Q3:「文鳥を屋外で飛ばしても戻ってくる」という描写は、飼い主に誤解を与えるのでは?
✅A:はい、視聴者への誤認を生む描写は、映像倫理上の配慮が求められます。
文鳥には帰巣本能がないため、屋外に出せば基本的に戻ってくることはありません。
仮に映像が合成や編集で作られていたとしても、視聴者が「うちでも真似できる」と誤解すれば、事故や動物虐待に発展する可能性があります。
そのため、動物が登場する作品においては、
「この演出は特殊な管理下で行われたものです」
「実際には絶対に真似しないでください」
といった視聴者への注意喚起やテロップの表示が、放送倫理上必要とされる時代です。
❓Q4:「何羽も使い捨てられたのでは?」というSNS上の声についてどう考えれば?
✅A:その可能性は低いと考えられますが、透明性のある情報開示が望まれます。
視聴者の間では、「1羽目が戻らなかったから、次々と違う文鳥を使ったのではないか?」という不安の声も出ています。
しかし、映像を精査した結果、フライトシーンの多くは極めて自然で滑らかな動きが再現されており、リアル系CGや合成処理が使われた可能性が高いと考えられます。
つまり、現実に何羽も使い捨てたというよりは、一部に実鳥を用いた短時間の撮影を行い、それを基にVFX処理を加えた可能性が高いです。
とはいえ、「命を粗末に扱った印象」を持たれた時点で、制作者側には説明責任が生じます。
**「どのような管理下で、どのような配慮のもと撮影されたか」**を積極的に公開する姿勢が、今後の信頼回復の鍵となるでしょう。

❓Q5:動物プロダクションが関与していた場合、屋外での文鳥の撮影は問題ないのですか?
✅A:関与していたとしても、屋外撮影には厳重な安全対策が必要です。
プロダクションが関与していれば、たとえ人に慣れた個体であっても、逸走・捕食・事故のリスクは常に想定されるため、以下のような対応が取られます:
屋内でのグリーンバック撮影+VFX合成への移行提案
屋外なら、カメラの見切れない範囲をグリーンネットで覆う施工
予期せぬトラブルに備えた即時回収体制の整備
今回の撮影において、そのような施工があった形跡はなく、動物プロダクションが関与していた可能性は低いと考えられます。
❓Q6:実際のフライトシーンは本当に生きた文鳥なのですか?
✅A:非常に高いクオリティのVFX(CG合成)処理である可能性が高いです。
映像に見られる文鳥の飛行挙動は滑らかで演出的に制御された動きが多く、実際の文鳥の不規則な飛行パターンとは異なる部分もあるため、リアル系のCGやVFXによる表現とみられる部分が多くあります。
そのため、「何羽も使い捨てられた」という懸念は、映像から確認される限り可能性は低いと考えられます。
❓Q7:それでも「命を雑に扱っているように見える」理由は?
✅A:「動物のリアルな姿」を描こうとした表現が、結果として“倫理的配慮の薄さ”と受け取られてしまったためです。
いくらCGであっても、視聴者に「実際に生き物を外に放している」と感じさせるリアリティがあれば、
「この演出、本当に大丈夫だったの?」という疑問や不安は当然湧いてきます。
つまり、問題は “実際にどうだったか” だけでなく、 “どう見えたか” にもある ということです。
❓Q8:個人所有の文鳥を使っていたとすれば、何が問題なのですか?
✅A:動物取扱業の登録がない限り、商業撮影に動物を使用することは法律違反の可能性があります。
個人が飼っているペットを、たとえ無償であっても商業作品(テレビ・映画・広告など)に出演させた場合、
第一種動物取扱業(展示・貸出)としての登録が必要になります。
これは「報酬の有無」に関係なく、営利性がある映像作品に使う時点で“業”にあたるからです。
登録もなく、動物取扱責任者の管理も不在で、事故リスクへの備えもない状態で使用された場合、
万が一事故が起これば、個人だけでなく制作会社も法的責任を問われる可能性があります。
🌱【まとめ】リアリティの裏にある“命の責任”を忘れないために
通報を寄せてくださった視聴者の方々の声には、
「文鳥の命が軽んじられているように見えたこと」
「作品の影響で間違った飼育や模倣が起こるかもしれないという懸念」
という真摯な想いが込められていました。
一方で、作品としての映像表現の完成度は高く、飛行シーンを含めたVFX処理は非常に洗練されたものです。
動物の動きを再現する演出技術としても、一定の称賛に値するクオリティと言えるでしょう。
しかし、だからこそ、視聴者の想像と事実のズレに対する説明責任が、いまの映像業界には強く求められています。
動物を登場させるということは、
“命”という現実を扱うということ。
視聴者の共感を得るには、作品づくりの裏側にある「命への向き合い方」こそが本当のリアリティとして試されているのです。

映像は、時に現実以上に人の心に影響を与えるメディアです。
だからこそ、たとえ1羽の動物でも、極限状態に置かれたような使用や、
“過酷な状況に見える”演出があった場合には、視聴者に強い不信感を与える可能性があります。
実際、今回の文鳥の登場シーンに関しては、当会の通報窓口「GSA-JAPAN公式目安箱」にも
過去に例を見ないほど多数の通報が寄せられています。
それは単なる“可哀そう”という感情論ではなく、
「命の扱い方に違和感を覚えた」という視聴者の本能的な警鐘であるとも受け取れます。
プロが関与していたとしても、
「その演出は本当に安全だったのか?」
「視聴者に誤解や不安を与えていないか?」
を第三者的な視点から客観的に見直すことは、いまの映像制作に不可欠な視点です。
動物が登場するシーンは、作品のリアリティを高める一方で、
その“命”の扱い方が作品の倫理そのものを問う時代になってきています。
【今後の対応について】
この作品における文鳥の使用に関しては、現時点で映像の一部確認が難しい部分もあるため、
当会としても引き続き、事実関係のリサーチと情報収集を継続いたします。
また進捗があり次第、公式ブログや報告ページにて随時情報を更新してまいります。